「聴覚防衛反応(聴覚過敏)の理解と改善に向けて」

聴覚防衛反応(聴覚過敏)とは? 

 まず、聴覚防衛って何?という方が多いと思いますので、簡単にどのような状態像なのかお話します。
 

 聴覚防衛反応の出ている子は、普通の人には何でもない程度に感じる音や声でも、私たちも嫌だなとよく思う、黒板に爪を立てた時に「キキー」という音と同じかそれ以上嫌に特定の音を感じてしまう状態です。その音や声の質は、その子に応じて違いますが、大まかに4種類に分けることができます。
 

(1)破裂音や爆発音(運動会のピストル音、バスやトラックの扉やリフトを動かす際のコンプレッサー音)

(2)高い周波数の音(サイレン、赤ちゃんの鳴き声、ほうきで掃く音、笛吹きのやかんの音、食器がカチカチ鳴る音)

(3)機械音(エアコンのファンの音、公衆トイレのハンドドライヤー、マイクを通した音や声、古いエレベーターのモーター音)

(4)ざわめきや反響音(体育館や室内プールの音、ファミレスや商業施設の中の音、マイクのハウリング音)
 

など、様々な音や声を嫌がる聴覚防衛反応を示す子がいます。大抵の人は気にも止めない程度の音ですが、聴覚防衛のある子にとっては先ほど述べたように、耐え難いほど嫌な音であるだけでなく、音が自律神経系にも影響を及ぼします。気持ちが悪くなったり、嘔吐しそうになったり(してしまったり)する子もいるのです。


 このように聴覚防衛反応を示す子は、苦手とする音から自分を守るため、耳をふさぐだけでなく、コミュニケーション行動として間違った学習を積み重ねてしまいがちです。

 最初は嫌いな音が聞こえると耳をふさいだり、その場から逃げ出そうとしたりします。その次の段階になると、嫌いな音が聞こえてきそうな場所に近づいたり、予想されたりするだけで嫌悪感を示したり、中にはパニックを起こしてしまう子どももいます。

 そのため、「困った子」や「わがままな子」と受け止められてしまい、本人の心はいっそう傷つけられてしまいがちです。

改善への考え方

 そこで、聴覚防衛反応を和らげていく指導方針としては、短期の対応策と長期で取り組む指導の2本柱で取り組んでいくことが大切です。

(1)「短期の対応策」
 苦手とする音刺激から遠ざけたり、取り除いたりするようにします。情動が崩れてしまうと(泣いてからでは手遅れ)防衛反応は強くでてしまいます。学校内だけでなく、保護者からもどこでどんな音が苦手か聞き取り、「ハンドドライヤーのあるトイレは使わない(近づかない)」や、「耳栓やイヤーマフを使う」などして、生活全般を落ち着いて過ごせる環境を整えましょう。

(2)「長期で取り組む指導」
 大脳皮質を働かせた識別的な脳の使い方を学習し、防衛反応が出にくいように指導します(識別的な脳の使い方とは、大脳新皮質を使うことで、防衛反応を呼び起こす原始的な脳の働きを抑制することができるからです)。

 具体的には、梱包材のプチプチを手でつぶしたり、袋の中でその子が嫌いではない楽器を鳴らし、何の楽器の音か当てさせたり、小さな音を鳴らして何の音か聞き分けさせたり、意識的に音を聞くような指導が効果的です。

 このように注意を向けていれば、嫌な音の中でも思っていたほど苦手ではない音だったことに気付かせ、記憶の書き換えをしていく作業が有効です。

 それでも嫌な音の場合は、「ギャー」と叫ぶのではなく、「止めてください」など、その子の認識に応じた伝達手段で意思を伝えることを教え、嫌な音も自分の意思で止められるという学習をしていきます。

 
 このように、注意や関心を向けて音を聞く(聴覚を使う)ことにより聴覚防衛反応は改善していきます。

その際に、気をつけてほしいこととして、(1)絶対に「怖い」「辛い」思いをさせない。(2)焦らず(大人が)、子どもの受け止め具合に合わせて進める。(3)音を意識して使わせ、「怖くなかった」「私、大丈夫」という経験からの学習を積み上げていってください。

改善は「脳の仕組み」の理解から

今回の「聴覚防衛反応」の改善も、これまでご紹介してきました「触覚防衛反応」の改善も生理的な反応として表れます。

生理的な反応とは、考えて好きとか嫌とかいうものではないということです。自分の命を守ろうとしてはたらいている反応ということをまずご理解ください。

そして、この命を守ろうとする反応は、脳の中の「脳幹(中脳)」と言われる部分がはたらいて起こる反応です。脳幹は呼吸などを司る、まさに生命に直結するようなはたらきをしてくれている脳の部位です。

脳の中の「上下関係」

「改善への考え方」にも書きましたが、脳は、上位の脳がはたらくと、下位に位置する脳は「抑制」ブレーキがかかるというしくみがあります。

上位の脳、大脳新皮質が使われているときは、下位にあたる脳幹レベルでの反応にはブレーキが上位からかけられるというしくみが、しっかりとはたらくようにすることが必要です。

逆に言いますと、触覚でも聴覚でも防衛反応が常に出っ放しになっている方は、この脳の上下関係がうまく機能していない状態といえます。

誤解の無いようにお伝えしますと、触覚防衛や聴覚防衛がない方も、この身を守るための機能はもっており、必要な時にだけ身を守るためにはたらいているということです。

いきなり大きな音がした時などは、身を守るような頭をすくめるような身体の反応や、いきなり後ろから身体を触れられた時などは、身構えたり、身体をのけ反らせたりと、防衛反応がはたらいているはずです。常に、身構えている状態というのが防衛反応の状態像ともいえます。

「識別系」が改善の要

「触覚防衛や聴覚防衛」を考える際の上位の脳とは「大脳新皮質」を指します。注意を向けて触れらるということや、注意を向けて音を聴くという意図的に触覚や聴覚を使うことが「識別的」な触覚・聴覚の使い方となります。

この意図的に使うということを一つキーワードとしてみてください。

防衛反応を示すお子さんの身体に触れる際は、その子の前から、「今から触れますよ」という言葉かけや身振りを示し、お子さんが注意を向けてから触れるようにすること。触れる際は広い面積で、少し圧を強くして触れるようにすることが大切です。

聴覚防衛反応を示すお子さんには、「これから音がしますよ」ということを伝えてから音楽をかけることや、いきなり大きな音をは出さず、少しずつ音量を上げるなどの配慮が必要です。

また、初めて行く場所などは、どんな音がするのか、どのような人(いきなり触れてくる人、うるさい人)がいるのか分からないので、泣き叫びながら行きしぶることがあります。それはどんな危険が待ち受けているのか見通せない不安から起こることがほとんどです。

それであれば、事前に分かる範囲で動画で映像を通してどこでどんな音がするのか見せてあげてもよいでしょう。また、先にどんな場所かスマホで録画してきて(お店であれば理由を伝え許可を得てから撮影してくださいね)、見せることで怖くないことを伝えてもよいと思います。その上で、本人がどうしてもこれは耐えられない音がする場所であれば、イヤマフの使用を促す、今回はやめておくなどの選択を取れるようにしてあげてほしいと思います。

触覚防衛反応も聴覚防衛反応も改善への道筋は「識別系」を使えるようにすることです。触覚へのアプローチをする中で、聴覚防衛も同時に改善することも多々あります。

ぜひとも、発達の原理原則を知り、適切なアプローチをしていってあげてください。

宇佐川研の中では、さらに具体的なアプローチ方法なども、理論を学んで頂いてからお伝えしています。ぜひ全国で開催されている宇佐川研にご参加いただき、子どもたちの本当の良き理解者、支援者になってくださいね。

宇佐川研 代表
臨床発達心理士
植竹

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管理者プロフィール

研究会の代表をしています、臨床発達心理士の植竹です。

宇佐川研(発達障害臨床研究会)は、平成2年より始まり、淑徳大学の故・宇佐川浩教授をスーパーバイザーとしてお招きして始まりました。「感覚と運動の高次化理論」を基に、臨床にこだわって行っている研究会です。

実践研(発達療育実践研究会)は、平成18年より始まり、療育塾ドリームタイムの木村順OTをスーパーバイザーとして始まりました。発達支援を行う際に必要な様々な発達理論を学び、実践を支える知識と技術を高める研究会です。

その、宇佐川研に14年、実践研に12年間学ぶ中で、第28期(平成29年度)より木村会長より代表を引き継ぎました。

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