『引き継ぎで他害があると言われたら』
引き継ぎで他害があると言われたら
3月、4月は新年度スタートへ向けて引き続きがたくさんされている時期かと思います。
引き継ぎの中で、他害行動があると言われることがよくあります。
他害行動があると言われた際に確認して欲しいポイントが4つあります。
①感覚の過敏さ(防衛反応)がありますか?
②姿勢保持の難しさ(低緊張)はありますか?
③癇癪は多いですか?
④偏食はありますか?
上記の3つ4つが重なることが多々あります。この①~④の内容の背景に共通する発達課題があるからです。
さぁ、ここで質問です。
この状態のボトルネック、支援ポイントがどこにあるでしょうか?
ここを理解せずに関わると、お子さんを読み間違え「他害をするなんて良くない!」「叱らないといけない!」となってしまうと新年度から最悪な関係になり、お子さんも不登校になるなど最悪の展開になりかねません。
上記の①~④の背景に感覚のつまずきが関係しています。そのため、他害行為自体は確かに望ましくない行為ではありますが、「なんでするの!」と叱っても改善へは向かいにくいのです。他害行為が起きてしまう発達的な理由を押さえることが必要となります。
①から④に共通する発達課題として、触覚と平衡感覚の未発達さが影響を与えていることが多いです。
簡単にではありますが、他害行動が起こる仕組みについてお伝えしていきます。
他害行動の背景に何がある?
引継ぎ時に気を付けること
引き継ぎをされる際に、苦労話ばかりを聞かされた場合は前担任の方は、この他害行動の仕組みを知らずに、叱るだけの指導や保護者に責任を押し付けるようなことをして、保護者との関係もあまり良くないことがあります。
他害行動の背景に、感覚の過敏さ、触覚防衛反応が原因となっていることが大多数あります。
他害行動が起きる仕組みを理解してスタートできると、お子さんの辛さもわかり、保護者の悩みにも寄り添いやすくなります。
他害行動は生理的な反射、反応としての行動のため、いくら道徳律で叱っても改善されることはなかなか無いということです。
他害行為が起こる仕組み
他害行動の多くは(引っかきや突き飛ばすなど)、触覚防衛反応が原因となり、自分の身を守ろうとして起こる反射的な行動となります。
防衛反応の原因は、大脳新皮質、ひいては前頭葉機能の一つである抑制機能がうまく働かないことが原因となります。
脳を育てる視点、脳の活動生を高めることが改善の第一の鍵となります。
もちろん、数日で改善されるものではありませんので、対処法と根治を目指した長期の取り組みが必要となります。
整理しますと、他害行動の背景は大きく2つあります。
①触覚防衛反応由来の他害行動。
もしくは、
②愛着形成由来の他害行動。
①タイプが②タイプかの判断材料として、①の防衛反応由来では、他害行動の他に特徴的な行動なのが、ブランコを激しく揺らして乗る、グルグル回るなどを日常的に好きなことが多い子に多くあります。
理由は平衡感覚の反応性が低く、脳が感覚情報を感じにくいので、直線加速度や回転加速度を脳が欲して激しく動くことが多くなります。同時に、このような行動を多くするお子さんは、脳の活動性も高まり辛いという特徴を併せもちます。
そのため、本来は前頭葉機能が発揮されていれば、自分の身を守るための防衛的な行動に抑制(ブレーキ)がかかるのですが、脳の活動性が低いままだとブレーキが利かないとなり、他害行動となってしまいます。
改善の鍵は、触覚防衛反応由来の他害行動の場合、まずは脳の活動性を高めることが根治への第一に取り組むとよい内容です。
具体的な取り組みは最後にお伝えします。
①と合わさることもあるのですが、②の愛着形成のつまずきの場合は、何か思い通りにならなかった際に、瞬間的に激しい癇癪が起こることが特徴的な行動です。
誤解してほしく無いのが、愛着の課題と言っても、保護者は熱心に愛情を注がれて育てていらっしゃることがほとんどです。
お子さんの身体が、アタッチメントを形成させる根っこにある触覚にトラブルが起こっていることが原因としてあるからです。だから、決して保護者の育て方を責めるような言動はしないでください。
保護者も悩み、苦しんでいますので、なぜ癇癪や他害が多くなるのか、理由と何をしたら半年後に良くなっていけるかを示しつつ関わり、適切な協力(家庭でも取り組めること)を得て欲しいと思います。
②の愛着形成由来の場合は、触覚からの安心感を得るような関わりが大切になります。
識別系の触覚を育てること、持続的に触れられても大丈夫なように、心地良い圧と触れ方で触覚の機能改善を図ることが必要です。
支援学校であっても、他害の背景を読み解いて指導計画を組み立てられていることは稀ですので、こちらを読まれた方はぜひとも、次の項目をチェックされてみてください。
『チェック項目』
「平衡感覚機能のチェック」
①回転椅子などで、2秒1回転の速度で10回回転した際に、眼振がでるかどうか?(回転後眼振の確認)
3秒以内、もしくは0となった際は、平衡感覚の低反応と位置付けられます。
②ブランコに乗ると激しく揺れる、椅子に座るとすぐにユラユラロッキング遊びを始める、いつもクルクル回っている、目の前で手をヒラヒラさせたりする動きがよくある(周辺視遊び)。
このような動きも平衡感覚の低反応性が原因で起こります。
「触覚の過敏さ(触覚防衛反応の有無)のチェック」
①歯磨き、耳かき、散髪などが苦手。少し衣服が濡れただけでも着替えたがる。など。
この場合は感覚由来の他害となり、触覚防衛反応が原因となっていることがほとんどです。
跳ぶ、揺れる、回る系の取り組みが改善の土台となります。
回転後眼振が見られるけれども、他害や癇癪が多い場合は、愛着形成のつまずきが考えられ、触覚を丁寧に育て、支援者との関係性の構築が鍵となります。
触覚防衛反応改善への取り組み
今一度、触覚防衛反応の改善へのポイントと改善への取り組みをお伝えします。
改善へのポイントとしては、「脳の活動性を高める」という点と、「識別系の触覚を育てる」という2本柱になります。
どちらも、ねらっていることは大脳新皮質の抑制機能がしっかり働くようにするための取り組みという位置づけです。
脳の活動性を高める視点としては、速めの加速度刺激が平衡感覚に伝わると、脳の活動性が高まるジェットコースター効果を活用した取り組みです。取り組みとしてはブランコやトランポリンなど、跳ぶ、揺れる、回る系の運動遊びをふんだんにすることです。
ただ、改善には頻度が大切という点から、雨の日でも暑い日でも、室内で楽に取り組める「バルンポリン」をおススメしています。詳しくはリンクからご覧ください。
そして、もう一つ識別系の触覚を育てる視点です。これは、お子さんに触れる一回一回がセラピーになると思ってください。お子さんに触れる際に、これから触れるということを言葉で伝えたり、ジェスチャーで伝えて、注意を向けさせてから触れることが基本です。
さらに、介入した取り組みとして、手の指先を優しくつまんでのばしてあげるなど、指先の神経に適切な情報を伝達する方法。また、タッチングという、手のひらやスポンジなどで、少し圧をかけて広い面でお子さんの手や腕をしっかりと触れていく触覚定位を促す取り組みです。
このような取り組みを3か月から半年ほど続けていくと、かなり触覚防衛反応の改善がみられていきます。防衛反応が改善されることで、他害行為は自然と消失していくようになります。
発達の仕組みからの支援を
他害行動は保護者を悩ます要因になりますし、支援者にとってもその子を加害者にさせない緊張感をもたらします。
だからと言って、「なぜ叩くの!叩いてはいけません」と道徳律を振りかざしても、その子も自分の手を止めることができない所に、支援の難しさがあります。
少しずつでも発達の仕組みを知り、子どもも大人も無理の少ない支援を進めていって欲しいと思います。
今年度も、発達の仕組みに基づく支援を、研究会(支援者向け)やオンラインサロン(保護者向け)でお伝えしていきたいと思いますので、一年間よろしくお願いいたします。
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