発達支援を進める上で大切な「4つの順番」

〜行動を変える前に、知っておきたい4つのステップ〜
はじめに:「何に取り組むか」の前に「どう捉えるか」
「クラスの子が、切り替えのたびにかんしゃくを起こしてしまって…」
「うちの子、階段が1段ずつ交互に昇れなくて…」
「クラスのAくん、突然お友達を叩いてしまうことが多くて」
特別支援教育に関わりだして数年、あるいは我が子の育ちに「うまくいかない」と感じ始めた支援者や保護者の方から、こうした相談をよく受けます。
このとき多くの人がまずやってしまうのが、「できないことをそのまま練習させる」という対応です。
切り替えが苦手なら切り替えを促す対応を、階段が苦手なら階段の練習を、他害行為には、ひたすら叩くことはよくないと説明する。
一見自然な発想ですが、実はこれ、遠回りになってしまうことが少なくありません。
発達支援には、子どもの力を引き出すための「順番」があります。今日はその順番を、4つのステップに分けてお伝えします。
ステップ①:まず「観察」する 〜評価する前に、そのまま見る〜
最初のステップは、「できない」をジャッジする前に、その子の行動をそのまま観察することです。
- かんしゃくが起きる直前、何が起きていたか
- 切り替えの前後で、表情や身体にどんな変化があるか
- 階段と平坦な場所での足のつき方の違いを見る
このとき大切なのは、「困った行動」「できない事実」だけではなく「その子なりの理由がある行動」として見ることです。かんしゃくも、1段2足の階段昇降も、思わず叩いてしまう行為も、その子にとっては「今の自分の身体・感覚でできる、精一杯の対応策」であることがほとんどです。
ステップ②:行動の裏にある「発達の背景」を考える
観察した行動を、「この子の発達の、どんな土台とつながっているのだろう」という視点で見直します。ここが、いきなり練習に入ってしまう対応と、遠回りに見えて実は近道になる対応との分かれ目です。
例えば、階段を1段ずつ交互に昇るには、片足に体重を預けても倒れずにいられる力が必要です。これを支えているのが、体幹や姿勢を保つ感覚の育ち(私たちの研究会では「正中軸」という言葉で説明しています)です。まだこの感覚が育っている途中の子は、片足立ちの不安定さを避けるために、両足を同じ段に揃えてから次の段に進む、という戦略を無意識に選んでいると考えられます。
※ここで挙げた「正中軸」という捉え方は、宇佐川研究会が用いている理論的な枠組みの一つです。1段2足の歩き方には、筋力や過去の転倒経験、運動の組み立て方の未熟さなど、他の要因が絡んでいることもあります。「必ずこれが原因」ということではなく、「そういう可能性がある」という見立ての一つとして持っておいてください。
なお、この階段の事例は、運動発達に比較的大きな遅れのあるお子さんのものですが、「1段2足でしか昇れない時期がある」こと自体は、多くの幼児が発達の途中で通る、ごく一般的な段階でもあります。「うちの子もそうかも」と感じた方も、まずは焦らず、次のステップに進んでみてください。
違う症例にも、同じように支援の順番から考えていきましょう
かんしゃくや切り替えの難しさも、考え方は同じです。ここでは、比較的軽度な、幼児期によくある2つの場面を例に見てみます(以下は特定の事例ではなく、よくあるパターンをもとに作成した例示です)。
例:他害行為が気になる場合
①の観察では、どのようなシチュエーションで手が出てしまうのかを観察します。すると、ふいに友達に触れられそうになった場面に多いということが浮かびあがってきたとします。
②の見立てでは、友達の好き嫌いというより、感覚の過敏さ、特に触覚防衛反応(友達がふいに触ろうとした状態そのものを、身体が「防御すべき刺激」として受け取ってしまう状態)が関わっていることが多いとされています。歯磨きや散髪、耳掃除が苦手。洋服の首元にタグが付いているものは着ることができない。食事の際に口が汚れるのを極端に嫌がる、服が少しでも濡れるとすぐ着替えたがるなどは触覚防衛反応の代表的な症状であり、原始的な触覚に抑制が効かず、身を守る反応があらゆる場面に表出されている姿です。
③の目標は「叩かないと約束する」ではなく、「相手に注意を向けて触覚を使う(識別系の触覚を使う)」に置き換えます。
④の手立てでは、順番が重要です。まず最初に行うべきは、叩くことは良くないと約束させることではなく、注意や興味を引き出してから身体に触れるようにすることです。触覚防衛反応を示す子にとっては、いきなり身体に触れられることを命の危険と脳が誤反応のように受け止めてしまいます。まず、身体に触れる際は、今から触れるということを相手に伝わったことを確認してから触れることが最初の支援になります。その上で、タッチングと呼ばれる触覚に対しての改善アプローチや、原始系の触覚にブレーキをかけるために必要な前頭葉機能を引き出すために、トランポリンやブランコなど速めの加速度が入る運動遊びが脳の活動性を高め、防衛反応の改善に寄与します。
例:活動の切り替えでぐずる場合
①の観察では、切り替えの何分前から様子が変わるかに加えて、「予告なしの急な切り替えが特に苦手か、切り替え全般が苦手か」、そして普段のその子の様子(ぼーっとしていることが多いか、逆に常に動き回っているか)といった、覚醒の状態も見ておきます。
②の見立てでは、大きく2つの背景が重なっていることがあります。
一つは、認知発達の段階として「パターン知覚水準」(ものごとを一つのまとまった状態・パターンとして捉える段階で、状況の一部が変わることを、関係性の変化としてではなく「全体が変わってしまうこと」として受け取りやすい段階)にあることです。この段階では、活動の切り替えは本人にとって想像以上に大きな変化として感じられます。
もう一つは、覚醒水準の低さ(低覚醒)によって、衝動を抑える働きを担う前頭葉機能が十分に働きにくくなっていることです。もちろん幼児期は誰でも前頭葉機能が発達の途中にあるため、ある程度切り替えが苦手なのは自然なことですが、普段から覚醒が低い状態にある子の場合、この働きにくさがより強く出ることがあります。
※「パターン知覚水準」「低覚醒による前頭葉機能の働きにくさ」は、宇佐川研究会の理論枠組みにおける見立ての視点です。切り替えの難しさは、こうした認知発達の育ちと脳の活動水準の両方が重なって生じている可能性がある、という捉え方であり、すべての子に一律に当てはまるものではありません。
③の目標は「泣かせずに片付けさせる」ではなく、その子の背景に応じて「変化を関係性として捉える力を育てる」あるいは「覚醒を整えて前頭葉機能が働きやすい状態をつくる」に置き換えます。
④の手立ても、背景によって変わります。パターン知覚水準が関わっていそうな場合は、写真や具体物を使って「前後の状態を見比べる」経験を積み重ね、変化そのものへの理解を育てていきます。低覚醒が関わっていそうな場合は、切り替えの直前にタイマーや予告カードを使う前に、まず軽い運動や身体への刺激(トランポリン、ぎゅっと抱きしめるなどの圧刺激)で覚醒を上げ、前頭葉機能が働きやすい状態を先につくってから、見通しを持たせる工夫を重ねます。
いずれの例も共通しているのは、「わがまま」や「単なる好き嫌い」として片付けず、感覚・認知・脳の状態という発達の土台に目を向けることで、次に何をすべきかの順番が見えてくる、という点です。
ステップ③:育てたい力を「目標」として言葉にする
背景の見立てができたら、「何を育てるか」を具体的な言葉にします。
- 「階段を昇らせる」ではなく「片足に体重を預けても姿勢を保てる感覚を育てる」
- 「切り替えでぐずるのを止めさせる」ではなく「変化を関係性として捉える力を育てる」「覚醒を整えて力を発揮しやすい状態をつくる」
行動そのものを目標にすると、練習は「できるまで繰り返す」だけの苦しいものになりがちです。育てたい力を目標にすると、手立ての選択肢が一気に広がります。
ステップ④:土台へのアプローチ→直接練習、の順で手立てを組む
ここでようやく、具体的な活動を考えます。順番として意識したいのは、「土台になる感覚や力を育てる活動」を先に、「直接的な練習」をそのあとに置くことです。
階段の例であれば、いきなり階段を昇らせるのではなく、その前に、揺れる・弾む・回るといった、バランス感覚を使う遊び(トランポリン、ぶら下がり遊びなど)を短時間はさんでみる。そのうえで階段に取り組むと、体の使い方が変わることがあります。
(この「揺れる遊びを何分」といった時間や回数に、確立された標準値があるわけではありません。お子さんの反応を見ながら、無理のない範囲で試してみる、という位置づけで捉えてください。)
かんしゃくや切り替えの難しさであれば、直接「我慢の練習」をさせる前に、見通しを持ちやすくする工夫(タイマー、絵カード、事前の声かけ)を土台として整える、という順番になります。
先生と保護者、それぞれにできること
この4つのステップは、学校でも家庭でも同じように使えます。
先生方へ:一人で見立てを完成させる必要はありません。「片足で体重を支えるのが難しそうに見えるのですが、感覚の育ちと関係がありそうでしょうか」というように、作業療法士など専門職に一歩踏み込んで問いかけてみることが、見る目を育てる一番の近道です。
保護者の方へ:おうちでの様子は、専門職にとって貴重な情報です。「いつ」「どんな場面で」その行動が起きるかをメモしておくだけでも、学校や専門機関との相談がぐっと具体的になります。「困った行動」を減らそうとする前に、「この子は今、何を育てている途中なんだろう」と眺めてみる。それだけで、見え方が変わってくるはずです。
おわりに:「急がば回れ」遠回りに見える道が、実は一番の近道なことが
「できないことを、できるまで練習する」のではなく、「その行動を支えている発達の土台に、先に働きかける」。
これは一見遠回りに見えて、実は子どもにとって一番無理のない、そして支援者にとっても迷いの少ない進め方です。
発達支援で難しいのが、上記の事例のように、症状に対する根本原因が思いもしないところにあることです。トランポリンやブランコに乗ることが、他害や癇癪の改善につながるとは一般的にすぐ思いつかないものです。だからこそ、発達のつながりを学ぶ必要性があり、宇佐川研は35年間、発達の仕組みを子ども達から学ぶという取り組みをしている理由です。
発達には、その子なりの順番があります。私たち大人にできるのは、その順番を急かすことではなく、今どのステップにいるのかを一緒に見つけていくことなのだと思います。














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