触覚防衛反応のメカニズム~そして改善へ~

触覚防衛反応の理解へ

前回は、触覚防衛反応(触覚過敏)の状態像についてお伝えしました。

触覚を使わずに生きることは、不可能に近いと言えるほど、頻繁に使う感覚です。その触覚に困難さを抱えて育つということは、どんなに生き辛いことでしょうか。

触覚防衛反応は生理的な反応なため、好きとか嫌いとか考えて判断するようなものではなく、自律神経的に不快さをもたらします。「とにかく辛いの」といった叫びたくなるような辛さにも関わらず、「繰り返せば慣れるから」といった誤った指導が数多く行われている現状です。

私は花粉症がありますが、繰り返せば慣れるからと、杉林に連れて行かれたからといって、ただ辛いだけで改善するものではありません。実際に連れて行かれたことはありませんが、ただただ辛いだけだと思います。

しかし、触覚防衛を抱える子には、このような、「いつかは慣れる」的な指導がされがちでいます。手にまとわりつくような感覚が苦手な子に、繰り返しぬたくり遊びをさせて、すぐ慣れるから大丈夫と言ったりしてしまってないでしょうか?「昔からしてるし、みんなしてるし」など慣習による指導は、落とし穴に気づかないことがしばしばです。

では、なぜこのような指導がおこなわれがちかというと、それは、私たちが実感しづらいところで働く感覚だからです。よくわからないので、つい思いつきで指導しがちなのだと思います。

根拠のない思い込みの指導は、誤った実践となりがちです。そのとばっちりは子どもたちに及びますので、ぜひ、今回、触覚防衛反応のメカニズムについて知っていただき、その子に合った改善への指導へ導いて欲しいと思います。

触覚防衛反応のメカニズム

それでは、触覚防衛反応のメカニズムについて大まかに説明していきたいと思います。(※今回は大まかにですので、この分野は作業療法士の先生の専門分野になりますので、作業療法士の先生の書かれた書籍や講演会、日本感覚統合学会で行われている研修を受講されるなどさらに学びを深めていただけたらと思います。)

触覚を含めて、「感覚器官」は生物が進化していく過程で少しずつ発達させていったもので、私たち人間の感覚も生物の発達の歴史の過程の所産となるそうです。

このような視点で「感覚」の特徴を見ていくと、感覚には大きく分けて二つの役割があります。

一つが「原始的・本能的なはたらき」で、もう一つが「認知的・識別的なはたらき」です。特に触覚はこの二つのはたらきに特徴が大きく現れやすく、そのために、その顕著な面が防衛反応として困難さを示すと考えられています。

それでは、この「原始系」「識別系」についてもう少し説明したいと思います。

「原始系」「識別系」二つのはたらきからの理解

 「原始系」とは、生命が生まれた何億年も昔から使っていた本能的な感覚機能のことをいいます。イソギンチャクなどももっていますが、われわれ人間も今でも誰もが、この原始的な働きは作用しています。

生命が生きていくためには、エサを取り込まないといきません。エサとあらば向かっていくこの反応が「取り込み行動」といいます。

また、触れたものが天敵ならば、身を守るために逃げなくては殺されてしまいます。生物によっては、殻の中に隠れたり閉じこもったりするでしょう。「警戒行動」「防衛・逃避行動」により身を守ります。さらには、自分が食べられそうなら、闘う「闘争行動」なども瞬時に取る必要があります。

このような、自分の身を守るために、瞬時に取りこんだり、逃避したりするために使っているのが「原始系」の働きです。

魚など眼が使える動物は視覚からも危険を感じますが、もっと原始的な動物はどこでこの危険を察知するかといえば、それが「皮ふ感覚」、すなわち「触覚」なのです。

この進化の遺産が我々人間にも引き継がれているのです。生まれたばかりの赤ちゃんが、唇に何か触れるとチューチュー吸いつく「吸てつ反射」などもその働きの一つです。そして、大人になっても、暗い夜道にいきなり後ろから首すじを触れられたりすれば、キャーッと相手を突き飛ばして逃げると思います。このように、反射的に身を守るために本能的に働く機能が「原始系」なのです。

そして、人が高等な哺乳類として、進化の過程で作り上げた情報処理をする機能として「識別系」と言われる機能があります。

例えば、私たちはカバンの中に手をつっこんで、カバンの中を見なくても、携帯電話だけを取り出したり、お財布だけを取り出したりすることができます。

このように、触れたものの「素材」や「かたち」「大きさ」を触り分けたり、自分のからだのどの「位置」に触れているかを感知したりするときに使っている触覚の働きを「識別系」といいます。

脳の中のこの「識別系」が発達すると、「原始系」と言われる本能的な働きは抑え込まれるようにして、ほとんど表に現れなくなります。

しかしながら、発達に何らかのつまづきがあると、「識別系」が「原始系」をうまく抑制できず、本能的な行動が残ってしまっている状態が触覚防衛反応の状態といえます。

ですので、この識別系をしっかりと働くようにしてあげることが触覚防衛反応を改善させていく糸口となるのです。

識別系を育てよう!

識別系を育てるためのポイントは「意識的に触覚を使う」ということです。

どのようなことかと言うと、子ども自身が今からどこに何が触れられるのかや、誰が触れるのかにしっかりと注意を向けるようにしてから触れるようにすることです。さらに、何が触れているのかはっきり知覚するために、やさしく触れるのではなく、少し圧をかけてしっかり触れさせることが大切です。

手で子供に触れるなら、指先で触るのではなく、手のひらでしっかりと握るようにすることが大切です。

また、識別系を育てる活動として、例えば、スポンジタワシを腕にギューっとタッチさせる活動なども良い活動です。首筋や口元など急所に近い部位は特に防衛反応が出やすいので、まずは腕など、急所から遠い部位に触れ、子どもが触れられている部位に関心が向いていることを確かめていきます。

もし嫌がるようなら、素材を変えたり、素手でしっかりと触れたりするようにします。

また、ブランコ乗りなど平衡感覚をたくさん使う運動をした後の方が、脳の覚醒も良くなったり、自律神経の働きも良くなったりすると言われてます。

ですので、触覚防衛があるお子さんの過敏さを和らげる取り組みを されるときは、平衡感覚を使った運動や遊びを楽しめたというほどした後に試みた方が、受け入れが良いと思います(ブランコなど揺れることが恐いと感じる子もいますので無理強いはしないでくださいね)。

肌に触れても大丈夫なようになってきたら、背中に数字を書いて、何の数字かあてさせるゲームや、袋の中におもちゃや積み木などを入れて、手探りで伝えたものを探り出す遊びなどに発展できると、手元に意識が向き触覚防衛が和らいでいくと思います。

このような活動は、触覚防衛の軽減につながるだけでなく、身体意識と言われるボディーイメージの回復にも良い働きをします。

人と触れあうぬくもりを感じられることは、人と共感的に育つ力になると思っています。

しかしながら、本日の触覚だけでなく、これまでに書いてきました、聴覚防衛反応や、良い姿勢を育てるために欠かせない「前庭感覚(平衡感覚)」の働きは、私たちが実感しにくい感覚であるため、これらの感覚に困難さを抱えている子どもたちの苦しみを理解してあげられていない現状がまだまだ教育現場や保育現場にあると思います。

ぜひ、このような生き辛さをもっている子どもたちの味方にみなさんがなっていただけることを願っています。

宇佐川研 代表
臨床発達心理士 植竹安彦

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

管理者プロフィール

研究会の代表をしています、臨床発達心理士の植竹です。

宇佐川研(発達障害臨床研究会)は、平成2年より始まり、淑徳大学の故・宇佐川浩教授をスーパーバイザーとしてお招きして始まりました。「感覚と運動の高次化理論」を基に、臨床にこだわって行っている研究会です。

実践研(発達療育実践研究会)は、平成18年より始まり、療育塾ドリームタイムの木村順OTをスーパーバイザーとして始まりました。発達支援を行う際に必要な様々な発達理論を学び、実践を支える知識と技術を高める研究会です。

その、宇佐川研に14年、実践研に12年間学ぶ中で、第28期(平成29年度)より木村会長より代表を引き継ぎました。

ページ上部へ戻る